竜巻のニュースは衝撃だった。
だれが家が土台ごとひっくり返るなんて想像しただろうか。
新築の家の中さえも安全ではないなんて、北朝鮮のミサイルよりずっと恐ろしい。
北朝鮮のミサイルなら、いくら発射されたって、
またアメリカさんが何食わぬ顔して失敗させてくれると思うから怖くない。
亡くなったのはにいやんと同じ中学三年生で、前途を期待される有能な若者だったらしい。
にいやんのような怠惰な息子が死んだって親は悲しいのに
優秀な子供を失った親御さんの嘆きを思うといたたまれない。
にいやんは連休中に友だちからPSPを借りていた。
学校のかばんに入っているのを私が見つけてしまった。
これで4回目だ。
前回、持ち主のクボタンが来たときに、貸してといわれてもゼッタイに貸さないでね
と釘をさして返したのだが。クボタンは深くうなづいていたのだが。
性懲りもなくまた借りてきやがったな。
まあ、友だちに貸してといわれれば、貸しちゃうよな。たとえ親に貸すなといわれていても。
クボタンがそういう選択をする以上、私は卒業するまでこれは返せないな。
にいやんとは、今度こういうことがあったら卓球はやめさせるという約束をしていた。
今やめれば、6月の学総を最後に引退だというのに
その試合に出られない。
私だってそんなことさせたくはないが、約束は守らねばならない。
すると
にいやんは苦し紛れにこんなことを言った。
「ゲームをしてたって、成績がよければいいんでしょ」
「偏差値38の人が良く言うよ。じゃあ今度のテストでどんだけ取れるのよ」
「じゃあ、20位に入らなかったら本当に卓球部をやめる」
「わかった、じゃあやってみな」
親だもの、最後の試合でもう一度県大会に出場したいというわが子の願いをかなえてやりたい。
それはきちんと準備をしさえすれば、十分に手の届く希望でもある。
でも、だからといってゲームをよしとするわけにはいかない。
家でゲームはやらせないというのは私の信念だ。曲げる気はない。
わが子がゲームにはまるのとコーラを飲むのと不倫するのは、ゼッタイに許さない。
理屈なんかない。
ならぬものは、ならぬ。
ゲームをするということは、このお母さんはいらない、と言うのと同義であると常々説いてきた。
だからにいやんも隠れてやろうとするのだろう。
20位というのはにいやんが自分で決めた順位だが、微妙な数字だ。
達成するのはかなり難しい。
できないとはいわないが、これまでと同じやり方では無理だ。
達成できるよう協力してやろうと思い、夕方から夜にかけて、
モスバーガーの店で勉強しようと誘ったが頑なにこばむ。
誰かに見られたくないという。
あげく、お母さんに教わらなくても自分でできる、というから
あきらめていると
夜中にいきなり二階に上がってきて、教えてくれと灯りをつける。
んもー、オトウサンにばれるから二階に来るのはやめてと言ってるのに!
眠れない!とねえやんも怒る。
そして、恐れていた事態がとうとう起こった。
オトウサンが寝床にひっこんで寝入ったと思われるころ、私は階下に降りていった。
にいやんの勉強をこっそり見てやろうと思ったのだ。
ところがそのとき、突然廊下を足音高くオトウサンが歩いてきた。
隠れる間などなかった。
オトウサンはしかし私など目に入らぬかのように
まっすぐににいやんのところへいき拳をふりあげた。
その理由。
さっきにいやんがオトウサンに、批判めいた発言をした。
それにオトウサンは腹をたてていた。
一度寝たもののが怒りがおさまらなかったので息子に鉄拳を浴びせに出て来たのだった。
それから、そこにいた私を一瞥して
「おまえなんでここにいるんだ?」と言った。
私があまりに急で言葉が出ないでいると、追及せずに寝部屋へ帰っていった。
実はずっと家にいたのか?なんて聞かれなかったからよかったが、ばれたか?とドキッとした。
顔をあわせたのは実に4ヶ月ぶりだ。
その後、実家へ行ったほうがいいかなとも思ったが、面倒だったので
玄関をあけたてして鍵をかけ、音でもって
実家へ帰りましたよ~、という演出をした。
そして、再び二階にひっこんだ。
朝、オトウサンが階段の下からねえやんを呼んだとき、
「お母さんがそこにいるだろう」と言われるんじゃないかと身構えちゃったよ。
ねえやんが目をさまさないので、私は必死でゆさぶって起こし、出ていかせた。
出ていかないと、向こうからやってきてしまう。
そしたら、万事休すだ。
ねえやんがねぼけまなこで階段を下りていくとオトウサンは
「これ、お母さんに渡しておけ。金がないんだろうから。」と二万円をよこした。
やったあ。ばれてなかった。現金ゲットもうれしい。
オトウサンは現在、自分で買ってきたインスタント味噌汁を飲んでいる。
そして、
「味噌汁ってこんなにうまかったんだ、お母さんの味噌汁がまずかったから知らなかった」
と子供たちに語ったという。
言ってくれるじゃないの。
その味噌汁をにいやんは勧められて飲んだところ、これのどこがうまいの?と思ったという。
そういうことこそ、オトウサンに言えばいいんだよ。
にいやん、20位に入れてやりたいけどな。
わからないところは先生に聞いてこいというと
先生に聞くと私は馬鹿です宣言をしているようなものだとぬかした。
あーあー、全然わかってない。
何をかっこつけてるんだか。
今、本当に分岐点にいるのに。
だれが家が土台ごとひっくり返るなんて想像しただろうか。
新築の家の中さえも安全ではないなんて、北朝鮮のミサイルよりずっと恐ろしい。
北朝鮮のミサイルなら、いくら発射されたって、
またアメリカさんが何食わぬ顔して失敗させてくれると思うから怖くない。
亡くなったのはにいやんと同じ中学三年生で、前途を期待される有能な若者だったらしい。
にいやんのような怠惰な息子が死んだって親は悲しいのに
優秀な子供を失った親御さんの嘆きを思うといたたまれない。
にいやんは連休中に友だちからPSPを借りていた。
学校のかばんに入っているのを私が見つけてしまった。
これで4回目だ。
前回、持ち主のクボタンが来たときに、貸してといわれてもゼッタイに貸さないでね
と釘をさして返したのだが。クボタンは深くうなづいていたのだが。
性懲りもなくまた借りてきやがったな。
まあ、友だちに貸してといわれれば、貸しちゃうよな。たとえ親に貸すなといわれていても。
クボタンがそういう選択をする以上、私は卒業するまでこれは返せないな。
にいやんとは、今度こういうことがあったら卓球はやめさせるという約束をしていた。
今やめれば、6月の学総を最後に引退だというのに
その試合に出られない。
私だってそんなことさせたくはないが、約束は守らねばならない。
すると
にいやんは苦し紛れにこんなことを言った。
「ゲームをしてたって、成績がよければいいんでしょ」
「偏差値38の人が良く言うよ。じゃあ今度のテストでどんだけ取れるのよ」
「じゃあ、20位に入らなかったら本当に卓球部をやめる」
「わかった、じゃあやってみな」
親だもの、最後の試合でもう一度県大会に出場したいというわが子の願いをかなえてやりたい。
それはきちんと準備をしさえすれば、十分に手の届く希望でもある。
でも、だからといってゲームをよしとするわけにはいかない。
家でゲームはやらせないというのは私の信念だ。曲げる気はない。
わが子がゲームにはまるのとコーラを飲むのと不倫するのは、ゼッタイに許さない。
理屈なんかない。
ならぬものは、ならぬ。
ゲームをするということは、このお母さんはいらない、と言うのと同義であると常々説いてきた。
だからにいやんも隠れてやろうとするのだろう。
20位というのはにいやんが自分で決めた順位だが、微妙な数字だ。
達成するのはかなり難しい。
できないとはいわないが、これまでと同じやり方では無理だ。
達成できるよう協力してやろうと思い、夕方から夜にかけて、
モスバーガーの店で勉強しようと誘ったが頑なにこばむ。
誰かに見られたくないという。
あげく、お母さんに教わらなくても自分でできる、というから
あきらめていると
夜中にいきなり二階に上がってきて、教えてくれと灯りをつける。
んもー、オトウサンにばれるから二階に来るのはやめてと言ってるのに!
眠れない!とねえやんも怒る。
そして、恐れていた事態がとうとう起こった。
オトウサンが寝床にひっこんで寝入ったと思われるころ、私は階下に降りていった。
にいやんの勉強をこっそり見てやろうと思ったのだ。
ところがそのとき、突然廊下を足音高くオトウサンが歩いてきた。
隠れる間などなかった。
オトウサンはしかし私など目に入らぬかのように
まっすぐににいやんのところへいき拳をふりあげた。
その理由。
さっきにいやんがオトウサンに、批判めいた発言をした。
それにオトウサンは腹をたてていた。
一度寝たもののが怒りがおさまらなかったので息子に鉄拳を浴びせに出て来たのだった。
それから、そこにいた私を一瞥して
「おまえなんでここにいるんだ?」と言った。
私があまりに急で言葉が出ないでいると、追及せずに寝部屋へ帰っていった。
実はずっと家にいたのか?なんて聞かれなかったからよかったが、ばれたか?とドキッとした。
顔をあわせたのは実に4ヶ月ぶりだ。
その後、実家へ行ったほうがいいかなとも思ったが、面倒だったので
玄関をあけたてして鍵をかけ、音でもって
実家へ帰りましたよ~、という演出をした。
そして、再び二階にひっこんだ。
朝、オトウサンが階段の下からねえやんを呼んだとき、
「お母さんがそこにいるだろう」と言われるんじゃないかと身構えちゃったよ。
ねえやんが目をさまさないので、私は必死でゆさぶって起こし、出ていかせた。
出ていかないと、向こうからやってきてしまう。
そしたら、万事休すだ。
ねえやんがねぼけまなこで階段を下りていくとオトウサンは
「これ、お母さんに渡しておけ。金がないんだろうから。」と二万円をよこした。
やったあ。ばれてなかった。現金ゲットもうれしい。
オトウサンは現在、自分で買ってきたインスタント味噌汁を飲んでいる。
そして、
「味噌汁ってこんなにうまかったんだ、お母さんの味噌汁がまずかったから知らなかった」
と子供たちに語ったという。
言ってくれるじゃないの。
その味噌汁をにいやんは勧められて飲んだところ、これのどこがうまいの?と思ったという。
そういうことこそ、オトウサンに言えばいいんだよ。
にいやん、20位に入れてやりたいけどな。
わからないところは先生に聞いてこいというと
先生に聞くと私は馬鹿です宣言をしているようなものだとぬかした。
あーあー、全然わかってない。
何をかっこつけてるんだか。
今、本当に分岐点にいるのに。
先日、床屋で驚かれた。
「細い首ですねーっ」て。
床屋さんの片手で私の首は一周できた。
それが悩みの種なんですけどね。
細いってことは、弱いってことだからね。
ゴールデンウイークのスタート前夜、二階で、
ねえやんの化学と物理をサポートしてやろうと思って、壁にもたれて勉強していた。
おしりがだんだんずれてきて、姿勢が悪くなる。
それでもクッションをあててそのままの姿勢を続けていたら、
首が疲れて、あやしい予感がした。
二年前にも姿勢悪くパソコンの前にいたのが原因で首をいためてしまい、動けなくなり
壁にもたれて二日間を過ごすはめになったことを思います。
あのとき反省して、もう二度とへんな姿勢はとらないと自分に誓った。
危ないと思ったので、すぐに寝ることにした。
いつも以上に慎重に枕をあてた。ひざと、腰と、首の下に。
このデリケートな首のために、枕はいくつ替えたかわからない。
明日の朝は治っているといいな、と思いながら寝た。
夜中。トイレに行きたくなって、目がさめた。
隣のピッチを起こす。
「おトイレ行かない?」
ピッチはすぐに起きてくれた。
私も体を起こそうとしたが、首に激痛。
自分の手で首を支えないと痛いが、それでは一人でおきられない。
痛くても、声を立てるわけにはいかない。オトウサンに気づかれてしまうから。
しかし結局、私は自分の首を支えることに徹し、体はねえやんに起こしてもらった。
再び横になるとき、次におきる苦労を思って憂鬱だった。
朝になった。
オトウサンが車で角を曲がる音を確認し、起きようと試みるが
また激痛。
何分もかかって、なんとか立ちあがらせてもらう。
今日は家事ができそうもない。
でも試合で学校へ行くにいやんに弁当だけは作らねば。
最近は短時間でできるよう、全て冷凍保存しているので
弁当箱に入れるだけでよい。
弁当は何とかこなせた。
こんなときのために首のサポーターを買っておいたのが、役に立つ。
首が固定されてるから下を見ることができないけれど、
手を副えずにいられるのが助かる。
サポーターのおかげでいすに座ったり立ったりできるようになった。
肩周辺までひどく疲れているから寝たいけれど、
横になったら最後、一人ではたてないのだから
壁にもたれて寝るしかない。
頭の重さは6キロくらいあるときく。
これを鶴のような細い首で支えているのだから
もっと自分の首をいたわるべきだった。
この前はどうやって回復したのだったっけ。
お風呂で温めるのがいいかもしれない。
でも、入るのはよくても、一人で湯船から出ることができるかなあ。
温まると楽になる。
おふろは一人で出ることができた。
三日目には一人でおきられるようになったし、
洗濯機の中を見ることができるほど
首を動かせるようになった。
今日は四日目だ。
首を起こしていると僧帽筋が板になってる感じ。
横になると、今度は頭の後ろがしびれてくる。
なんかやばい感じだ。
どうもPCの前にいるのが原因のような気がする。
今日は自転車にも乗れるようになったし
神社の掃き掃除も、草むしりもできたので
回復傾向にある。
治るまでに何日かかるか記録しておこうと思う。
そして、PCをいじる時間は減らさねば!
「細い首ですねーっ」て。
床屋さんの片手で私の首は一周できた。
それが悩みの種なんですけどね。
細いってことは、弱いってことだからね。
ゴールデンウイークのスタート前夜、二階で、
ねえやんの化学と物理をサポートしてやろうと思って、壁にもたれて勉強していた。
おしりがだんだんずれてきて、姿勢が悪くなる。
それでもクッションをあててそのままの姿勢を続けていたら、
首が疲れて、あやしい予感がした。
二年前にも姿勢悪くパソコンの前にいたのが原因で首をいためてしまい、動けなくなり
壁にもたれて二日間を過ごすはめになったことを思います。
あのとき反省して、もう二度とへんな姿勢はとらないと自分に誓った。
危ないと思ったので、すぐに寝ることにした。
いつも以上に慎重に枕をあてた。ひざと、腰と、首の下に。
このデリケートな首のために、枕はいくつ替えたかわからない。
明日の朝は治っているといいな、と思いながら寝た。
夜中。トイレに行きたくなって、目がさめた。
隣のピッチを起こす。
「おトイレ行かない?」
ピッチはすぐに起きてくれた。
私も体を起こそうとしたが、首に激痛。
自分の手で首を支えないと痛いが、それでは一人でおきられない。
痛くても、声を立てるわけにはいかない。オトウサンに気づかれてしまうから。
しかし結局、私は自分の首を支えることに徹し、体はねえやんに起こしてもらった。
再び横になるとき、次におきる苦労を思って憂鬱だった。
朝になった。
オトウサンが車で角を曲がる音を確認し、起きようと試みるが
また激痛。
何分もかかって、なんとか立ちあがらせてもらう。
今日は家事ができそうもない。
でも試合で学校へ行くにいやんに弁当だけは作らねば。
最近は短時間でできるよう、全て冷凍保存しているので
弁当箱に入れるだけでよい。
弁当は何とかこなせた。
こんなときのために首のサポーターを買っておいたのが、役に立つ。
首が固定されてるから下を見ることができないけれど、
手を副えずにいられるのが助かる。
サポーターのおかげでいすに座ったり立ったりできるようになった。
肩周辺までひどく疲れているから寝たいけれど、
横になったら最後、一人ではたてないのだから
壁にもたれて寝るしかない。
頭の重さは6キロくらいあるときく。
これを鶴のような細い首で支えているのだから
もっと自分の首をいたわるべきだった。
この前はどうやって回復したのだったっけ。
お風呂で温めるのがいいかもしれない。
でも、入るのはよくても、一人で湯船から出ることができるかなあ。
温まると楽になる。
おふろは一人で出ることができた。
三日目には一人でおきられるようになったし、
洗濯機の中を見ることができるほど
首を動かせるようになった。
今日は四日目だ。
首を起こしていると僧帽筋が板になってる感じ。
横になると、今度は頭の後ろがしびれてくる。
なんかやばい感じだ。
どうもPCの前にいるのが原因のような気がする。
今日は自転車にも乗れるようになったし
神社の掃き掃除も、草むしりもできたので
回復傾向にある。
治るまでに何日かかるか記録しておこうと思う。
そして、PCをいじる時間は減らさねば!
にいやんのオネショは本当に完治したようだ。
オネショしちゃった朝は、にいやんはシャワーをあびて学校へ行ってた。
小便くさいといわれるのを恐れて。
でも、治ったから、もうそういうこともなくなるね。
と思っていたのだが
なんだか、このごろにいやんがクサイ。
雄くさいというものなのかな、
思春期の男の子のニオイなのかな。
着た衣類も特有のニオイがある。
にいやんが今朝、登校前にシャワーを浴びていた。
なぜ?もしかして、おねしょしたの?
いや、汗いっぱいかいちゃったから浴びたんだ。
本当かしらん。
でもパジャマは濡れていない。
布団も、裏側はぬれているが、表は乾いている。
やはり汗のようだ。
オネショはもう治ったっていうけど
ぐっしょり一点集中だったのが、全身からじわーっと出るようになっただけじゃない?
オネショしちゃった朝は、にいやんはシャワーをあびて学校へ行ってた。
小便くさいといわれるのを恐れて。
でも、治ったから、もうそういうこともなくなるね。
と思っていたのだが
なんだか、このごろにいやんがクサイ。
雄くさいというものなのかな、
思春期の男の子のニオイなのかな。
着た衣類も特有のニオイがある。
にいやんが今朝、登校前にシャワーを浴びていた。
なぜ?もしかして、おねしょしたの?
いや、汗いっぱいかいちゃったから浴びたんだ。
本当かしらん。
でもパジャマは濡れていない。
布団も、裏側はぬれているが、表は乾いている。
やはり汗のようだ。
オネショはもう治ったっていうけど
ぐっしょり一点集中だったのが、全身からじわーっと出るようになっただけじゃない?
二階にひそんで、音を立てないようにしている私のところへ、
ピッチやねえやんが来るのは問題ない。
二階はねえやんの勉強部屋なのだから、ねえやんが来るのは当然だし
ピッチの机も置いているから、ピッチが頻繁に来てもあやしまれることはない。
しかし、にいやんとなると話は別だ。
オトウサンが寝てからならいいが、まだ居間にいる時間に
ひときわ大きな足音をたてて二階へ行けば、
鈍感なオトウサンにも、にいやんが二階へ行ったとわかるし
なぜ姉妹の部屋へ行きたがるんだ?と疑問を抱かせることになってしまう。
そんなところへピッチの報告。
「オトウサンが、なんでにいやんはしょっちゅう二階に行くんだろう、不思議でしょうがない
って、言ったよ。」
うわー。やばいよーそれ。
だからにいやんは、来ちゃだめだって教えてるんだが、
注意しても、来るんだな、これが。
オトウサンは、私に対して、兵糧攻めに出た。
つまり、現金を渡さないことにした。
だから私は今、カードで買う店にしかいけない。
安い八百屋は現金しか使えないのだ。
仕方がないから、当分は割高な買いものをするしかない。
オトウサンは買い食いが多いから
食費は相当かさんでいるだろう。
しかしこうしてオトウサンが自分で財布を握ることで
暮らしにどんだけのお金がかかるか、よくわかることだろう。
その事実が、欲望にまかせた出費をできなくさせるだろう。
オトウサンに財布を握らせれば、今後の教育費などの捻出も
オトウサンの仕事になり、私は気楽になれる。
オトウサンは最近、頭の地肌にぶつぶつができたらしい。
先日は、昼間に突然電話してきた。
このへんに皮膚科はあるかとアタリマエのように聞いてきた。
調べて教えたら、翌日行ったらしく、塗り薬のパッケージが翌日のごみにあった。
3ヶ月もジャンクフード中心の生活をしてるから
毒がたまったのだろう。
「お母さんがいないから(それは体に良くないとケチをつけられることなく)好きなものが食える」
と言ってるのを、二階で聞いたが
それでフライドチキンばかり食ってるからこの結果なんじゃーないの?
昨日の朝も電話してきて、
「おじさんが亡くなったから喪服を出しておいてくれ」と言った。
んなもん、洋服ダンスにあるに決まってるじゃん。
自分で出せよ、と言いたいところだが、仰せの通り出しておいた。
先日は、会社からたらの芽をとってきて、
私の実家へとおいていったというが、
私はためらいなく、捨てた。
生活費をくれなくなったので、
私はオトウサンの洗濯をやめることにした。
日に日にたまるパンツ。
ついに明日はなくなるぞ。
そしたらどうするのだろう。
ついに自分で洗濯をするのだろうか。
しかし翌日、しまった、と思った。
私が以前予備に買ってひきだしにしまっておいたパンツを
オトウサンは見つけて使いはじめたのだった。
このままでは予備を全部使われてしまう。
一度に全部使うと、パンツのゴムが早くいたむ。
仕方がないから
私はたまったパンツを洗うことにした。
食器はときどき洗っているようだ。
べとべと汚れにスポンジをじかにつけるものだから
スポンジもべとべとに油が回って、一回で使えなくなってしまう。
二階に「おまえら、食器は水につけておかないと汚れを落とすのが大変なんだぞ」と
大声で注意しているのが聞こえてくる。
オトウサンは朝、使った食器を洗い桶の水につけたまま出かける。
べとべとしてるから、自分で洗うのがいやなのだ。
あとはおまえがやれ、との無言の指示であろう。
子供たちに、使った食器は洗い桶の水につけろと言うのは、もしかして親切のつもりなんだろうか。
これが実際のところ、とても迷惑。
オトウサンの皿はフライドチキンのような動物性脂肪がべとべとについている。
それを水につけると、その汚れは皿の表面のみならず、皿の裏側にまでもれなく広がる。
その水につけた子供たちの皿も、全体がべとべとになってしまうのだ。
子供たちの食事は動物脂肪は殆どないから、
水で流すだけでOKなのだが、オトウサンの指導により
全体にべとべとがまわり、洗剤を使って洗わないといけなくなっている。
動物脂肪は、流せば排水溝まで全部べとべとになる。
べとべとを流されると、本当にあとが面倒だ。
水につける前に、ふきとれば大事にならないのだが。
オトウサンは言うことが変わってきている。
数日前、「お母さんに出ていけなんて、一度も言ったことがない」と主張したという。
ウソだ、私は確かに聞いていたよ、とねえやんが反論したら
怒ってねえやんに出て行けとどなった。
だけど、私に電話してくるときは
何事もなかったような穏やかな口調なのだ。
お母さんに言っとけと子供を通して伝えてくる内容は自分では決して口にしない。
とりあえず、二階にいることがばれないようにしなければ。
そのためには、にいやんがちょくちょく来るのはまずいなあ。
きのうも勉強につきあってほしいとやってきた。
オトウサンが寝たあとだったから見つかる心配は少なかったけれど、
その時間はピッチのおやすみタイムだったから別の問題が生じた。
お母さんの隣で寝たいピッチはにいやんに場所をとられてぶんむくれ、
兄妹げんかがはじまった。
ちょっとー、こんなに騒々しくちゃ、オトウサンが目を覚ましちゃうじゃないよ。
階下の声が筒抜けなんだから、二階の声も聞こえちゃうじゃないよ。
私がいるのを知ったら、まずいことになると思うし
黙って買ってきちゃった神棚も見られたら困る。
オトウサンは先祖供養についてこう言ってた。
「うちには供養なんか必要ないんだ。○○家だけすればいいんだ、呪われてるんだから!」
ご先祖さまー、あなたの子孫はこんなに無知なんですよ~、とご先祖さまにチクッてやりたいね。
だけど、二階から声だけ聞いてるかぎり、オトウサンは最近生き生きしている。
食事にはかなり問題がありそうだが、もうすぐ健康診断があるから
そこで自覚できるだろう。
ピッチやねえやんが来るのは問題ない。
二階はねえやんの勉強部屋なのだから、ねえやんが来るのは当然だし
ピッチの机も置いているから、ピッチが頻繁に来てもあやしまれることはない。
しかし、にいやんとなると話は別だ。
オトウサンが寝てからならいいが、まだ居間にいる時間に
ひときわ大きな足音をたてて二階へ行けば、
鈍感なオトウサンにも、にいやんが二階へ行ったとわかるし
なぜ姉妹の部屋へ行きたがるんだ?と疑問を抱かせることになってしまう。
そんなところへピッチの報告。
「オトウサンが、なんでにいやんはしょっちゅう二階に行くんだろう、不思議でしょうがない
って、言ったよ。」
うわー。やばいよーそれ。
だからにいやんは、来ちゃだめだって教えてるんだが、
注意しても、来るんだな、これが。
オトウサンは、私に対して、兵糧攻めに出た。
つまり、現金を渡さないことにした。
だから私は今、カードで買う店にしかいけない。
安い八百屋は現金しか使えないのだ。
仕方がないから、当分は割高な買いものをするしかない。
オトウサンは買い食いが多いから
食費は相当かさんでいるだろう。
しかしこうしてオトウサンが自分で財布を握ることで
暮らしにどんだけのお金がかかるか、よくわかることだろう。
その事実が、欲望にまかせた出費をできなくさせるだろう。
オトウサンに財布を握らせれば、今後の教育費などの捻出も
オトウサンの仕事になり、私は気楽になれる。
オトウサンは最近、頭の地肌にぶつぶつができたらしい。
先日は、昼間に突然電話してきた。
このへんに皮膚科はあるかとアタリマエのように聞いてきた。
調べて教えたら、翌日行ったらしく、塗り薬のパッケージが翌日のごみにあった。
3ヶ月もジャンクフード中心の生活をしてるから
毒がたまったのだろう。
「お母さんがいないから(それは体に良くないとケチをつけられることなく)好きなものが食える」
と言ってるのを、二階で聞いたが
それでフライドチキンばかり食ってるからこの結果なんじゃーないの?
昨日の朝も電話してきて、
「おじさんが亡くなったから喪服を出しておいてくれ」と言った。
んなもん、洋服ダンスにあるに決まってるじゃん。
自分で出せよ、と言いたいところだが、仰せの通り出しておいた。
先日は、会社からたらの芽をとってきて、
私の実家へとおいていったというが、
私はためらいなく、捨てた。
生活費をくれなくなったので、
私はオトウサンの洗濯をやめることにした。
日に日にたまるパンツ。
ついに明日はなくなるぞ。
そしたらどうするのだろう。
ついに自分で洗濯をするのだろうか。
しかし翌日、しまった、と思った。
私が以前予備に買ってひきだしにしまっておいたパンツを
オトウサンは見つけて使いはじめたのだった。
このままでは予備を全部使われてしまう。
一度に全部使うと、パンツのゴムが早くいたむ。
仕方がないから
私はたまったパンツを洗うことにした。
食器はときどき洗っているようだ。
べとべと汚れにスポンジをじかにつけるものだから
スポンジもべとべとに油が回って、一回で使えなくなってしまう。
二階に「おまえら、食器は水につけておかないと汚れを落とすのが大変なんだぞ」と
大声で注意しているのが聞こえてくる。
オトウサンは朝、使った食器を洗い桶の水につけたまま出かける。
べとべとしてるから、自分で洗うのがいやなのだ。
あとはおまえがやれ、との無言の指示であろう。
子供たちに、使った食器は洗い桶の水につけろと言うのは、もしかして親切のつもりなんだろうか。
これが実際のところ、とても迷惑。
オトウサンの皿はフライドチキンのような動物性脂肪がべとべとについている。
それを水につけると、その汚れは皿の表面のみならず、皿の裏側にまでもれなく広がる。
その水につけた子供たちの皿も、全体がべとべとになってしまうのだ。
子供たちの食事は動物脂肪は殆どないから、
水で流すだけでOKなのだが、オトウサンの指導により
全体にべとべとがまわり、洗剤を使って洗わないといけなくなっている。
動物脂肪は、流せば排水溝まで全部べとべとになる。
べとべとを流されると、本当にあとが面倒だ。
水につける前に、ふきとれば大事にならないのだが。
オトウサンは言うことが変わってきている。
数日前、「お母さんに出ていけなんて、一度も言ったことがない」と主張したという。
ウソだ、私は確かに聞いていたよ、とねえやんが反論したら
怒ってねえやんに出て行けとどなった。
だけど、私に電話してくるときは
何事もなかったような穏やかな口調なのだ。
お母さんに言っとけと子供を通して伝えてくる内容は自分では決して口にしない。
とりあえず、二階にいることがばれないようにしなければ。
そのためには、にいやんがちょくちょく来るのはまずいなあ。
きのうも勉強につきあってほしいとやってきた。
オトウサンが寝たあとだったから見つかる心配は少なかったけれど、
その時間はピッチのおやすみタイムだったから別の問題が生じた。
お母さんの隣で寝たいピッチはにいやんに場所をとられてぶんむくれ、
兄妹げんかがはじまった。
ちょっとー、こんなに騒々しくちゃ、オトウサンが目を覚ましちゃうじゃないよ。
階下の声が筒抜けなんだから、二階の声も聞こえちゃうじゃないよ。
私がいるのを知ったら、まずいことになると思うし
黙って買ってきちゃった神棚も見られたら困る。
オトウサンは先祖供養についてこう言ってた。
「うちには供養なんか必要ないんだ。○○家だけすればいいんだ、呪われてるんだから!」
ご先祖さまー、あなたの子孫はこんなに無知なんですよ~、とご先祖さまにチクッてやりたいね。
だけど、二階から声だけ聞いてるかぎり、オトウサンは最近生き生きしている。
食事にはかなり問題がありそうだが、もうすぐ健康診断があるから
そこで自覚できるだろう。
ねえやんはいま、化学部に所属している。
なんでも、毎年、全国化学グランプリという試験があって、
そこで上位5パーセントに入ると国立大学に無試験で入れちゃうのだとか。
化学部の先輩にも一人、居並ぶ灘や開成の化学好きに混じって
上位に食い込んでいる人がいるんだそうだ。
化学部の先生は非常に熱心で、部員の勧誘をもみずから行う。
去年、自分のクラスの天然の女の子を一人だまくらかして入部させたし、
部員に命じてヘッドハンティングさせ、見学に来ただけのつもりのねえやんを
もう部員になってるから、と涼しい顔で部員にしてしまった。
なかなか押しの強い先生だ。
そういうわけで、男所帯だった化学部に数年ぶりに女子が二名いる。
ねえやんは化学の勉強を教えてもらえるならまあいっかと入ったにすぎない。
将来は化学の教師になりたい先輩もいるので
その人の模擬授業の生徒役が必要だったのかもね。
化学そのものにさらさら興味がない女子二人が化学部にいる理由はそこかもね。
ところがねえやんは
先生の強烈なリーダーシップにより化学の勉強を優先せざるを得なくなってきている。
2年生から化学の授業が始まったが、初日に
このクラスには化学部員が二人いるから一位、二位は二人が取るように、と
みんなの前で圧力をかけられた。
三年生も一位二位三位を化学部員が占めており
先生にとって、化学部員が化学の成績で他の追随を許さないのは当然のことなのだろうが。
さて、化学グランプリは7月にあるが、化学部員はすでに全員申し込まれてしまったそうだ。
元々全国の化学が特に好きな人ばかりが受けるテストを、
ねえやんのようなナンチャッテ部員が受けても
結果はわかりきっているのだが
こればかりは先生がどうしても受けろとゆずらないという。
今年は新入生が5名見学にきたが、
その場で実験に参加させ、名前を登録してしまったという。
まだ入ると言ってない一年生に、教科書と資料集と問題集を渡して
次はいついつきなさいと決めてしまったという。
さすが。この強引さがなくては化学部は廃部になってしまうだろう。
先生は去年、クラスの女子に頼まれて
18禁の漫画を秋葉原まで買いに行ったという。
ねえやんはこれを怪しんでいる。
どんな交換条件があったのだろうかと。
先生も見たかったから買いに行ったのではないかと。
そんなに疑ってないで率直に聞いてこいよ。
先生には6年生の女の子がいる。女の子を持つ親として
「女子は大学は家から通うべきだ」と主張しているという。
「もし自分の娘が筑波大学に入ったら、俺は筑波に引っ越す」と言う。
先生は筑波大学を愛しているようだ。
化学グランプリのあとには、打ち上げをする、と先生が言った。
化学部の生徒には、みんなで何かしようぜなんて、言い出す人はいない。
忘年会も、卒業生を追い出す会も、
企画するのは全て先生なのだ。
その費用も生徒には一切出させず、全て負担してくれる。
先日、卒業生を送る会をしたときのこと。
先生がおでんを用意してくれ、家庭科室で鍋を借り
先生が持っているカセットコンロでおでんを温め、先輩を待った。
(良かったよ、ビーカーとアルコールランプを使ったんじゃなくて)
東工大に現役合格した先輩だけは、何かの用があり遅れてくるということで
おでんをとりおいてまっていたが、いっこうに来ない。
とうとう
もう今日は来ないだろう、と判断した先生が
よし、残してあるおでんも、食べてしまえ、と指示した。
そしてきれいに食べ終わったところへ
その先輩が息せききって現れたのだった。
先輩の東工大合格祝いは、こんな形になってしまった。
いちばんお祝いしてあげたい人だったのにね。
埼玉県和光市に、理化学研究所という有名な理科系の研究施設がある。
ここが毎年4月に一般公開をする。
それに、普通科からは希望者が、理数科の生徒は全員強制で、参加するのが恒例だ。
現地に着いたら広大な施設を好きなように見て歩いて、いつ帰ってもいい。
化学部の人は全員参加するので、まとまって行くことになった。
先生はお昼に食堂へ行けばなんちゃらいう研究者に質問ができるかもしれないと楽しみにしていた。
生徒たちは駅で待ち合わせをし、みんなで部長の後をついて歩いた。
電車が来たのでホームへ走った。駅は人でごったがえしている。
みんなはちゃんとついてきているだろうか。
迷子はいないだろうか。
部長は電車に乗り込む直前に後ろをむいて人数を確認した。
みなも止まって数えられた。
さすが部長。全員を連れて行く責任をしっかり感じている。
置いてけぼりを出してはいけないから、乗り込む前にきちんと確認をしたのである。
乗ってしまってから、あれ、一人足りないなんてわかっても遅いもんね。
さすがである、この慎重さが化学で常に高得点をたたき出す秘訣だろう。
ただ不運なことに、
先輩が数え終わるより、電車のドアが閉まるほうが少し早かったので
みんなは急にがらんとした駅のホームで電車を一本待つことになった。
・・・まだ良かったよ、待っているのが苦痛になるような暑い日じゃなかったからね。
電車の中では同級生の変人ショウヘイくんは
「これとあれを混ぜたらどうなりますか」とこの機会に先輩を質問ぜめにしていたし
理系の本を読みふける人もいれば、ライトノベルを読んでいる人もいた。
理研に着いて、施設を回るが、常に誰かがまだ来てない状態で
ねえやんともう一人の女子部員は待ちくたびれたという。
それぞれが、興味があるところで立ち止まって動かなくなってしまうからだった。
・・・こういう場所では集団行動はそぐわないよね。
まあねえやんは先生にくっついて歩いて、なかなか面白かったという。
当日はかなりの人が混雑しており、小さな子供連れの人もたくさんきていた。
あちこちで、質問されてる理研の研究者が、実にうれしそうに答えていたのが印象的だったという。
帰るとき、やっと化学部員全員が揃ったと思ったら、
「行きとは違う道を通っていきたい」と言い出すやつがいる。
どの電車ルートで帰るかでも議論がはじまってしまい、15分くらいかかって
20円安いルートで帰ることに決まったという。
そして、駅についたときには、また、一人たりない状態になっていたが
部長も今度は
「もういいや、自分で帰るだろう」と捨て置いた。
先生はつくばエクスプレスに乗るから、といち早く帰っていた。
何しろ朝が早いのだ。
3年生に早朝授業をするために、毎日始発に乗るのだという。
先生は180ページにおよぶ精選問題つきのオリジナルプリントをつくってくれた。
これさえマスターすればセンター試験は満点だと豪語している。
生徒のためにがんばってくれる熱い先生なのだった。
しかし、いくら熱い先生がついても、
ねえやんは帰ってくると、勉強もせずに眠ってしまった。
どうした?明日も化学はあるのに。
なんでも、毎年、全国化学グランプリという試験があって、
そこで上位5パーセントに入ると国立大学に無試験で入れちゃうのだとか。
化学部の先輩にも一人、居並ぶ灘や開成の化学好きに混じって
上位に食い込んでいる人がいるんだそうだ。
化学部の先生は非常に熱心で、部員の勧誘をもみずから行う。
去年、自分のクラスの天然の女の子を一人だまくらかして入部させたし、
部員に命じてヘッドハンティングさせ、見学に来ただけのつもりのねえやんを
もう部員になってるから、と涼しい顔で部員にしてしまった。
なかなか押しの強い先生だ。
そういうわけで、男所帯だった化学部に数年ぶりに女子が二名いる。
ねえやんは化学の勉強を教えてもらえるならまあいっかと入ったにすぎない。
将来は化学の教師になりたい先輩もいるので
その人の模擬授業の生徒役が必要だったのかもね。
化学そのものにさらさら興味がない女子二人が化学部にいる理由はそこかもね。
ところがねえやんは
先生の強烈なリーダーシップにより化学の勉強を優先せざるを得なくなってきている。
2年生から化学の授業が始まったが、初日に
このクラスには化学部員が二人いるから一位、二位は二人が取るように、と
みんなの前で圧力をかけられた。
三年生も一位二位三位を化学部員が占めており
先生にとって、化学部員が化学の成績で他の追随を許さないのは当然のことなのだろうが。
さて、化学グランプリは7月にあるが、化学部員はすでに全員申し込まれてしまったそうだ。
元々全国の化学が特に好きな人ばかりが受けるテストを、
ねえやんのようなナンチャッテ部員が受けても
結果はわかりきっているのだが
こればかりは先生がどうしても受けろとゆずらないという。
今年は新入生が5名見学にきたが、
その場で実験に参加させ、名前を登録してしまったという。
まだ入ると言ってない一年生に、教科書と資料集と問題集を渡して
次はいついつきなさいと決めてしまったという。
さすが。この強引さがなくては化学部は廃部になってしまうだろう。
先生は去年、クラスの女子に頼まれて
18禁の漫画を秋葉原まで買いに行ったという。
ねえやんはこれを怪しんでいる。
どんな交換条件があったのだろうかと。
先生も見たかったから買いに行ったのではないかと。
そんなに疑ってないで率直に聞いてこいよ。
先生には6年生の女の子がいる。女の子を持つ親として
「女子は大学は家から通うべきだ」と主張しているという。
「もし自分の娘が筑波大学に入ったら、俺は筑波に引っ越す」と言う。
先生は筑波大学を愛しているようだ。
化学グランプリのあとには、打ち上げをする、と先生が言った。
化学部の生徒には、みんなで何かしようぜなんて、言い出す人はいない。
忘年会も、卒業生を追い出す会も、
企画するのは全て先生なのだ。
その費用も生徒には一切出させず、全て負担してくれる。
先日、卒業生を送る会をしたときのこと。
先生がおでんを用意してくれ、家庭科室で鍋を借り
先生が持っているカセットコンロでおでんを温め、先輩を待った。
(良かったよ、ビーカーとアルコールランプを使ったんじゃなくて)
東工大に現役合格した先輩だけは、何かの用があり遅れてくるということで
おでんをとりおいてまっていたが、いっこうに来ない。
とうとう
もう今日は来ないだろう、と判断した先生が
よし、残してあるおでんも、食べてしまえ、と指示した。
そしてきれいに食べ終わったところへ
その先輩が息せききって現れたのだった。
先輩の東工大合格祝いは、こんな形になってしまった。
いちばんお祝いしてあげたい人だったのにね。
埼玉県和光市に、理化学研究所という有名な理科系の研究施設がある。
ここが毎年4月に一般公開をする。
それに、普通科からは希望者が、理数科の生徒は全員強制で、参加するのが恒例だ。
現地に着いたら広大な施設を好きなように見て歩いて、いつ帰ってもいい。
化学部の人は全員参加するので、まとまって行くことになった。
先生はお昼に食堂へ行けばなんちゃらいう研究者に質問ができるかもしれないと楽しみにしていた。
生徒たちは駅で待ち合わせをし、みんなで部長の後をついて歩いた。
電車が来たのでホームへ走った。駅は人でごったがえしている。
みんなはちゃんとついてきているだろうか。
迷子はいないだろうか。
部長は電車に乗り込む直前に後ろをむいて人数を確認した。
みなも止まって数えられた。
さすが部長。全員を連れて行く責任をしっかり感じている。
置いてけぼりを出してはいけないから、乗り込む前にきちんと確認をしたのである。
乗ってしまってから、あれ、一人足りないなんてわかっても遅いもんね。
さすがである、この慎重さが化学で常に高得点をたたき出す秘訣だろう。
ただ不運なことに、
先輩が数え終わるより、電車のドアが閉まるほうが少し早かったので
みんなは急にがらんとした駅のホームで電車を一本待つことになった。
・・・まだ良かったよ、待っているのが苦痛になるような暑い日じゃなかったからね。
電車の中では同級生の変人ショウヘイくんは
「これとあれを混ぜたらどうなりますか」とこの機会に先輩を質問ぜめにしていたし
理系の本を読みふける人もいれば、ライトノベルを読んでいる人もいた。
理研に着いて、施設を回るが、常に誰かがまだ来てない状態で
ねえやんともう一人の女子部員は待ちくたびれたという。
それぞれが、興味があるところで立ち止まって動かなくなってしまうからだった。
・・・こういう場所では集団行動はそぐわないよね。
まあねえやんは先生にくっついて歩いて、なかなか面白かったという。
当日はかなりの人が混雑しており、小さな子供連れの人もたくさんきていた。
あちこちで、質問されてる理研の研究者が、実にうれしそうに答えていたのが印象的だったという。
帰るとき、やっと化学部員全員が揃ったと思ったら、
「行きとは違う道を通っていきたい」と言い出すやつがいる。
どの電車ルートで帰るかでも議論がはじまってしまい、15分くらいかかって
20円安いルートで帰ることに決まったという。
そして、駅についたときには、また、一人たりない状態になっていたが
部長も今度は
「もういいや、自分で帰るだろう」と捨て置いた。
先生はつくばエクスプレスに乗るから、といち早く帰っていた。
何しろ朝が早いのだ。
3年生に早朝授業をするために、毎日始発に乗るのだという。
先生は180ページにおよぶ精選問題つきのオリジナルプリントをつくってくれた。
これさえマスターすればセンター試験は満点だと豪語している。
生徒のためにがんばってくれる熱い先生なのだった。
しかし、いくら熱い先生がついても、
ねえやんは帰ってくると、勉強もせずに眠ってしまった。
どうした?明日も化学はあるのに。

